「私は仕事で自己実現する!」と周りに豪語するのは、今の日本ではなかなか勇気がいることなのではないでしょうか?
そんなことをしようものなら、どこか冷笑を浴びせられがちだったり、冷めた目で見られがちなのが日本の現代社会な気もします。
そうなると当然ながら、
「仕事をする上で自己実現は必要ですか?」
「仕事で自己実現なんて無理ですよね?」
「仕事を通して自己実現を目指すなんて幻想でしょ?」
という疑問・質問・反論が出てきやすいですよね。
最初に結論だけ言うと、「仕事をする上で自己実現は必須ではない」という意味では、確かに自己実現はいらないと思います。
しかし、仕事を通して幸せになりたいなら自己実現はそれをサポートしてくれるとても大切な視点です。
というか、今の仕事と自分の自己実現をしっかりと結びつけられている人々は、みんな自分自身にとって本当に理想的な人生を自然と送ることが出来るようになります。
これとは逆に、仕事を「義務・犠牲・我慢」という三本柱で支えていて、「お金のため」「世間体のため」「他にやることがないから」といったような自己実現とは真反対の理由で仕事に取り組んでいる人は、幸せになることはなかなかにして難しいのではないでしょうか。
また、そもそも論として、「仕事」と「自己実現」のことを多くの方が誤解しているのだとも思います。
言い換えれば、「仕事とは何か?」「自己実現とは何か?」ということをしっかり理解すれば、自然と仕事を通して自己実現に至る意味や価値を腑に落とすことができて、それを実践することで自分の人生がどんどん豊かになることが実感できるんです。
ということで、今回は「仕事と自己実現の関係性とは何か?」という大本の話から、仕事において自己実現を果たす意義やその方法などをサクッとまとめてみました。
もくじ
1.そもそも仕事は?
さて、それではまず「そもそも仕事とは何ぞや?」ということについて紐解いてみたいと思います。
少しアカデミックなお勉強っぽいことになるのですが、「仕事」という言葉の語源を知ると「仕事とは何なのか?」ということが分かるので、最初はこのことに触れてみましょう。
結論から言うと、「仕事」の元々の語源は、「すること」という意味になります。
これは意外と知られていないのですが、「仕事」の「仕」とは、「動作」や「行為を行う」という意味の言葉です。
一方で、「事」はそのままで「こと」ですね(笑)
つまり、両者をガッチャンコさせると、「すること」という意味になるんです。
要は、「仕事」とは本来、ただ単純に「すること」の意味でしかなかったんですよね。
それがいつの間にか、「仕事」=「すること」=「すべきこと」というニュアンスに置き変わってしまったという背景があります。
いわゆる「勤労の義務」も、この「すべきこと」という意味での「仕事」のことを指していると言え、このことが余計に元々の「仕事」の語源の意味合いをボヤケさせて、気付けば「仕事」=「義務だからやりたくなくてもやらなければイケナイこと」という風に解釈する人が増えたのだと思います。
しかし、繰り返しになりますが、「仕事」とは本来は「すること」という意味であり、そこに義務はありません。
そして、実は「自己実現」という言葉の本当の意味も、「すること」と非常に近いものがあります。
しかも、「自己実現」にも「仕事」と似たような誤解が生まれているものまた事実なんです。
ということで、この事を理解するために、続いては「自己実現」という言葉が指し示す本当の意味について深ぼっていきましょう。
2.自己実現の本当の意味とは?
さて、自己実現という言葉はもともと英語だった表現で、それを輸入する際に日本語訳して「自己実現」という訳になった言葉です。
なお、そもそもの英語では、自己実現は「Self-Actualization」という形での造語表現が一般的ですね。
ちなみに、自己実現という言葉自体が日本で有名になったキッカケとなった人物はマズローですが、最初に自己実現という単語を生み出したのは別の心理学者だということは意外と知られていない事実だったりします。
もっとも、マズロー自身もそのことはとある著作でしっかりと述べていて、自分が使う自己実現という言葉はもともと生み出された自己実現という言葉にマズローなりの味付けを加えたものであるとも明言しています。
そんな、やや面倒くさい回り道を経由して日本で広まった自己実現という言葉ですが、その意味を一言で言うならば、それは「ありのままの自分の可能性を思う存分発揮すること」という意味になります。
ただし、マズローの語る自己実現は他にも様々なニュアンスをはらんでいるので、あえてその膨大な情報量の中心にあるエッセンスをギュギュっと凝縮すると、先ほどのような表現に言い換えられるということです。
したがって、自己実現とは、「高い目標を立ててそれを達成すること」でもなければ、「社会的に成功すること」でもありませんし、「社会的に意義のある大志を成し遂げること」というのとも違うものです。
つまり、平たく言えば、「自分らしい人生を歩んでいること」や「自分が本質的に心の底から望んでいることをすること」という側面が大切になってくるのが自己実現です。
ちなみに、このような話を聞くとどこか利己的で自分勝手な印象を抱くかもしれませんが、マズローの語る自己実現とはそのような自己中心的なものではありません。
むしろ、真の自己実現を果たしている人というのは、ありのままの自分を素直に表現し生きていても、それが他者に損害を与えたり迷惑をかけたりすることなく、むしろそのように生きることが周りの人々や社会にとっても良い影響をもたらすという特徴があります。
言うなれば、自分を押し殺したり自己犠牲に陥ったりすることなく、とても伸びやかで自由な自分でいることで、それが自ずと世界と調和し双方にとって理想的な結果に繋がっているんですよね。
そして、何を隠そうその手段が、彼らにとっては「仕事」になっているのです。
言い換えれば、本当の意味で自己実現を生きている人というのは、自分の本当の望みややりたいことを何かに遠慮することなく現実世界で形として実現することが「仕事」に結びついているのです。
したがって、彼らにとっては仕事は喜ばしいものであり、楽しいことであり、やりがいのある「やめろと言ってもやめられない」ものなのです。
平たく言えば、彼らは遊ぶように仕事をしているとも言えるでしょう(笑)
もっとも、これは僕の意見ではなく、マズロー自身がこのような表現をしていることもお伝えしておきたいと思います。
実際、マズローは『人間性の最高価値』という著作の中で、自己実現している人と仕事の関係性について、次のような表現で述べています。
『これらの人びとにあっては、仕事と遊びとの慣習的な日常の二分法が、完全に超越されることが明らかである。すなわち、このような人のこのような状況にあっては、仕事と遊びの間に、区分がまったくないのである。彼の仕事は遊びであり、彼の遊びは仕事である。』
ちなみに、単に「遊び」と聞くと、どこか無責任で怠惰な印象を受けるかもしれませんが、マズローも語っているように自己実現における「遊び」とはそのようなものではありません。
むしろ、遊ぶように仕事をすることで、本質的な成果を創り出すことができ、自分と他者・社会の双方を健全に満足させることができるのが、真の自己実現を生きている人です。
実際、自己実現しているか否かに関わらず、本当に自他にとって望ましい結果を仕事で継続的にあげ続けられる人というのは、その仕事を楽しみ、まるで仕事が趣味かのように働いている人ですよね。
これとは逆に、盲目的な責任感や、依存的な義務感や、自己満足的な理由で仕事をしている人は、それが一時的な成果に結びついていても、長期的かつ全体的な視点で見ればどこかに無理が生じていて、必ず何かしらのほころびや問題を抱えてしまっていることに自分でも気づいていないだけだったりします。
つまり、このような意味において、自己実現を生きている人にとっては仕事というのは自分の人生をより味わい深く有意義にしてくれるものなのです。
このような意味では、先ほどの「遊び」というのも、一般的な意味合いでの遊びとはレベルが違う、高い次元によって実現されている「成熟した遊び」と言うこともできると思います。
要は、仕事という観点から自己実現を定義すれば、それは「遊び」であり、「楽しいこと」であり、「やめられないこと」であり、それゆえに「自分の自己実現を支えてくれているもの」でもあるということですね。
このようなスタンスで仕事を捉えているからこそ、彼らは真剣に仕事に取り組みつつも、いつもどこか余裕があって、ユーモアに溢れ、創造的な発想や、鋭い視点や、感謝の気持ちをもつことができているのでしょう。
少なくとも、仕事を「すべきこと」「しなけばならないこと」と捉えている人は、このように大らかな気持ちで仕事に臨むことはできないのは明らかですよね。
3.自己実現的でない仕事は不幸の元?
さてさて、ここまでで「仕事」という切り口で見た自己実現の大枠は掴めたかと思うのですが、その一方で、僕たちは自己実現的とは言えない形で仕事に取り組んでいると一体全体どうなってしまうのでしょうか。
マズローは、仕事を通して自己実現している人と対称的な人を様々な言い回しで表現しているのですが、その中に「未熟者」というものがあります。
マズローいわく未熟者というのは、仕事を次のようなものにおとしめている人です。
・強制されることや義務を遂行するために仕方なく行うもの
・社会からの一方的な期待に応えるためのもの
・惰性によって継続されているもの
・自己防衛の手段となるもの
・自分を偽るもの
・自分の低次の基本的欲求を満たすもの
など
なお、ここで出てきた「低次の基本的欲求」とは、マズローの提唱する欲求階層における「自己実現の欲求」より下位に位置する「生理的欲求」や「安全の欲求」などを指しています。
つまり、「自己実現の欲求」で生きる人とは真逆の性質をもつ人が未熟者であり、また、彼らのもつ特徴は以下のように整理できます。
依存、臆病、恐怖心、不安、逃避、我慢、自己否定、利己的、盲目的、虚偽など
これらは、なかなか人の神経を逆なでする切れ味のある単語だと思います。
もちろん、どの単語に特に反応するかは人によって全く違うと思いますが、僕も含め恐らく多くの現代人はどれかしらのワードに心がギュッとなるのではないでしょうか。
また、マズローは仕事を通して自己実現を果たしている人々に共通してしている、彼らが大切にし、またそれを追求することに人生を捧げている、あらゆる人間にとっての共通の本質的な価値を見つけ出していたのですが、その価値を生きられないことやそれに背くことで被ってしまう悲惨な状態について、以下のようなものを挙げていました。
・生きがいの喪失
・人生への無意味感
・自分に対する無価値感
・楽しむ能力の欠如
・喜びの消失
・ものごとへの無関心
・ 退屈、無感動、憂うつ
・絶望、苦悩
・冷笑、不信感、疎外感
・虚無感、空虚な心
・不自由
・哲学的な危機
・感性の鈍化、機械化・ロボット化、柔軟性のなさ
・目的のない破壊、不健全な反感、正当性のない敵対心や怒り
などなど
これらもなかなか心をグラつかせるような表現たちですが、こういった事柄に一つも当てはまらないという人は、いまの社会にどれだけいるのでしょうか。
いずれにしろ、仕事が本来の意味ではないものになり、自己実現とはかけ離れた存在になることで、僕たちはこのような状態に陥ってしまいます。
また、なかには自分で自分の心をマヒさせことで、これらの事から目を背け続けることもあります。
しかし、自分で自分を欺き続けていると当然ながら心はやせ細っていき、場合によっては取り返しのつかないことになってしまいかねません。
だからこそ、マズローは心理学としてこれに警鐘をならし、そのための対処法や、目指すべき目的地をしっかりと教えてくれていて、その目的地の代表例が何を隠そう自己実現なのです。
もちろん、自己実現を生きることはそれこそ義務ではありませんし、マズローの語る自己実現を完全に果たすことはラクなことではありませんが、少なくともそのためのアドバイスをマズローはしっかりと明示してくれています。
となると、あとはその声掛けに、自分がちゃんと耳を傾けるか否かということになりますよね。
4.仕事で自己実現するために
さて、ここまでの内容に触れてきたことで、きっと今まで以上に自己実現というものに興味をもっていただけたのではないでしょうか。
少なくとも、「自己実現なんてクソだ!綺麗ごとだ!フザけんな!」とは思わなかったですよね(笑)
もちろん、先ほども述べたように自己実現というのは誰かに命令されてするものではありませんし、もっと言えば、マズローは仕事以外における自己実現についても僕たちに教えてくれています。
とはいえ、日本に生きるほとんどの人は、やはり人生の大半の時間を仕事に割いているということは今さら言うまでもないことでしょう。
そういった意味では、仕事を通して自己実現を果たすことは、自分の人生をより望ましいものにする近道であり、むしろ多くの場合はそれが進むべきメインストリートになるものだと思います。
となると気になるのは、仕事において自己実現を果たす具体的な方法ですよね。
しかし、残念ながらその方法を全てお伝えするとなると余りにも膨大な文章量になるので、このコラムではとてもじゃないですが出来ないことになります。
ということで、ここでは自己実現を生きる上で基礎中の基礎となる部分だけお伝えできればと思います。
もっとも、その内容は言葉にしてしまえば「なんだそんなことか」と思われるようなことかもしれません。
そんな気持ちをガッカリさせてしまう可能性大の自己実現に至る方法とは、「自分自身とちゃんと向き合う」ということです。
なぜなら、僕たちは往々にして、自分のことを自分が思っている以上に遥かに正しく理解することができていないからです。
だからこそ、仕事上での問題がいつまでたっても解決しなかったり、常に心の奥底で不平や不満を抱えていたり、モヤモヤした気持ちやネガティブな感情に苛まれる人がたくさんいるのです。
そして、それらの原因は自分の外側にあるものではありません。
自分から逃げることなく真正面からしっかりと対峙し、本当の自分と繋がることができれば、自ずと進むべき道は見えてくると思います。
しかも、そのときにとても心強い見方になってくれるものとして、マズローは「欲求階層」という自分の心のすがたをハッキリと捉えるツールを提供してくれています。
マズローの語る欲求階層の話をしっかりと吸収し、その過程で自分を見つめなおすことで、階層上の欲求がひとつひとつ健全に満たされていき、それが最終的にちゃんと自己実現に繋がっているのです。
しかし、ここまで触れてきた自己実現の内容と同じく、この欲求階層についても残念ながら本当に多くの方がその内容を誤解しまくっているのも事実です。
そういった意味でも、巷の表面的な情報や浅はかな知識に騙されることなく、マズローの教えてくれる欲求階層の内容を正確に理解することが、仕事を通して自己実現に至るはじめの一歩になるのだと思います。
とはいえ、マズローの著書を実際に読んだことがあればご存じだと思いますが、その難解さはそれこそ自己実現に至る道のりの如く容易には読み進められないものだったりもします(笑)
そこで、僭越ながらマズローが書いた書籍から欲求階層だけを抽出してまとめた電子書籍『マズロー心理学と欲求階層~自分の本音を思い出す~』を、Amazonから出版させていただいていますので、まだ読んでいただいていない方はこういったコンテンツも使いながら、自分なりの自己実現を歩んでいただければと思います。
なんだか最後は自然と宣伝になってしまいましたが、そこは何卒お許しくださいね(笑)