自己実現

[Alexandros]「アルペジオ」/孤独により生まれる本当の繋がり

自己紹介

 

[Alexandros](アレキサンドロス)の奏でる「アルペジオ」という曲は、自由を生きることの本当の価値と、孤独という言葉が意味する真の広がりを感じさせてくれる曲だと思います。

今回は、そんな「アルペジオ」という楽曲を、マズロー心理学的翻訳機を耳につけて聞いてみることで、孤独と自己実現との結びつきについて紐解いてみたいと思います。

 

 

引用:amazon.co.jp

 

【歌詞引用】
[Alexandros]「アルペジオ」
作詞:川上洋平
作曲:川上洋平

 

「アルペジオ」という楽曲は、下記のような歌詞から始まりますね。

 

I’m sorry
うまく笑えないよ
あなたの喜び わからないのに

I know I’m so lost
愛想笑いで 誤魔化せなくって

 

言うまでもなく、社会の中で生きる僕たちは、とかく協調性を求められます。

「出る杭は打たれる」ということわざの通り、その輪からハミ出す者は、あっという間に非難ごうごうの嵐にあい、まるで罪人のような仕打ちを受けてしまうのです。

したがって、集団に同調できない人は、「ごめんなさい」と謝るしかありません。

 

「僕が悪いんです」
「こんな私で申し訳ありません」
「皆さんに合せられなくてすいません」

 

社会や他人が差し出す枠組みに当てはまるように自分を変えられない人には、居場所はないのです。

既存の型にはめ込むことで自分を失ってしまうことは分かっているのですが、そうしなければ「不適合者」「落第者」「失格者」の烙印を押されてしまうのですね。

だからみんな、笑いたくなくても笑ったり、共感できない相手の気持ちに共感しているようにうそぶいたり、愛想笑いやお世辞や謙遜をこしらえながら、何とか生き抜こうとするのです。

 

I’m only trying to figure out the way
馴染めない群れから離れてみた

I know I’m alone
でも孤独は 心地が良くって

 

しかし、それでもその輪の中にいることが耐えられずその外側に出てしまう人もいます。

いったん枠外に出ることでその輪には二度と戻れないかもしれませんし、輪の外側には予想外の危険や苦しみが待っているかもしれません。

しかし、それでも一部の人たちは自分を押し殺して生きることへの違和感に我慢できなくなります。

 

そしていざ、実際に外に出てみると、そこにはそれまでとは全く違う世界が広がっていました。

孤独という世界は、自分の心に風を吹き込んでくれ、今まで溜め込んでいた重く鈍く冷たいものから、自分をどんどん解放してくれます。

それはある種、勇気を出して新しい世界に飛び出した者にだけ訪れるギフトのような経験と言えるでしょう。

 

冷たい夜 空はクリア過ぎて
私の心をあぶりだす

痛いよ ひとりで歩くのは
でも嘘つけなくて

 

そんな開放的な感覚に浸れるのも束の間、次第に外の世界に特有の厳しさや苦しさとも出会うようになります。

今までずっと目をそらし続けていた問題とも、真正面から対峙する必要が出てくるからですね。

広く澄んだ世界だからこそ見えてくる世界があまりにもリアルであるがゆえに、その純度の高さに腰が引けてしまいそうになります。

大衆に紛れていれば直視せずに済んだ本質的な問題と一対一で向き合うことは、痛みを伴うことなのですね。

それまで知らなかった自分の一面や、想像もしていなかった感情や心模様に出会い、戸惑ってしまうかもしれません。

しかも、周りを見渡しても誰もいないのです。

したがって、たった一人でその世界を歩んでいかなければいけないので、その寂しさやツラさに耐えかねて元の世界に戻りたくなることもあります。

 

しかし、それは、かけがえない他ならぬ自分自身に対して嘘をつく世界に戻るということです。

「自分に嘘をつく安全で無難な世界」と「自分に正直になることで恐怖や不安を直視する世界」の、その天びんの間でユラユラと迷い、時にはその狭間で引き裂かれそうな葛藤も経験します。

というか、本当のことを言うと、そのような苦悩が待っていることを実は輪の中にいる時から僕たちは知っていて、それを恐れるが故に、自分を欺き安全な檻の世界に閉じこもろうとしているのですね。

 

いずれにしろ、一度檻の外に出ることを決意し、葛藤や苦悩をしつつも、それでも元の世界には戻らず、更に新しい世界へと足を進め続けることを、マズローは「自己実現」と呼びました。

自己実現を生きている勇者は、ありのままの自分で生き抜くことを何よりも大切にしていて、周りからのけ者にされないために自分を歪めることは絶対にしません。

彼らは、本当の自分自身を守り通すことで、自分らしい人生を謳歌しています。

 

誰の物でもない「私」があるから
笑われても、嫌われても
守りぬくよ

偽って笑うぐらいなら
苦虫潰した表情(かお)で睨むよ、睨むよ
嘘偽りない「私」で

 

言葉にしてしまえば何てことない事ですが、自分という存在は自分自身のためにいてくれる存在です。

自分自身を誰かほかの人に明け渡してしまうことをマズローは「疑似自己」と呼び、自己実現とは正反対の状態であるとしています。

 

そして、「出る杭を打ちのめす世界」には、この疑似自己状態の人がウヨウヨしています。

彼らは、自分が自分の人生に心の底から満足していないのを知っているので、外の世界に出る人を羨んだり憎んだりしているのです。

その姿はさながらゾンビのようで、外の世界に出ようとする勇者を引き戻そうともします。

しかもその手法は実に巧妙で、ときにはあからさまに敵意を向けずに、「思いやり」や「優しさ」という仮面をつけて手招きをしたりすることもあります。

彼らは、自分が外の世界に出たことがないのでその世界のことを本当は何一つ知らないにも関わらず、さも知っているかのようなもの言いで、自分と同じ世界に依存し続けるようにお互いを監視し合っているのです。

 

I’m sorry
涙流せないよ
あなたの哀しみはあなたの物

I know you’re alone
代わりに弾くよ このアルペジオ

 

社会ではよく「相手の立場に立って考えなさい」というセリフが使われますが、それは実は絶対にできないことです。

なぜなら、仮に相手の立場に立てたとしても、それはもうその時点でその相手ではなく自分になってしまっているからですね。

この矛盾に気付けないと、自分と相手の問題を混同したり、不幸の原因を他人や社会に押し付けるのがどんどん上手になってしまいます。

 

それが喜びであろうと悲しみであろうと、自分の感情は自分のものであり、相手の感情はその人のものです。

 

そういった意味では、僕たちは本質的には孤独な存在なのですが、これはニヒリズムのような虚無主義的な後ろ向きの話ではありません。

輪の外に広がる新しい世界で生きる人々はこのことをよく理解しているので、自分が孤独であることを本質的に受け容れることにより、自分と他者を尊重することができています。

言うなれば、彼らにとっての孤独とは、お互いの自由を解放するものなのです。

 

これとは逆に、仕切られた内側の狭い世界にギュウギュウ詰めになって生きている人たちは、孤独の持つ本当の価値を知りません。

孤独と真正面から向き合わないので、いつまで経ってもその本当の姿を見ることなく、ただただ盲目的に孤独を恐れることしかできないのですね。

 

この曲のタイトルにもなっている「アルペジオ」という言葉は音楽用語なのですが、これは和音の構成音を一音ずつ低い音もしくは高い音から順番に弾いていくことで、リズム感や深みを演出する演奏方法のことになります。

和音というのは、基本的には多くの音が集合して同時に鳴らされるのに対し、アルペジオは一つ一つの音がバラバラで「独立・孤立して」鳴らされます。

つまり、曲のタイトルの「アルペジオ」とは「独立」「孤立」という意味とほぼ同義であると捉えることもできます。

 

輪の外に広がる自由な世界で生きる孤独を内包できている人々は、そこから輪の内側の人に向けてその素晴らしさを伝えようともしてくれています。

しかし、自分に嘘をついた疑似自己状態の人たちには、彼らの声が聞こえないか、聞こえていてもその言葉が示す本当の意味を理解することはできません。

人によっては、その言葉を「綺麗ごと」や「平和ボケ」や「現実逃避」だと非難することもあります。

勇気をくじかれると、僕たちはこのように偏屈でツマラナイ人間になることで自分を守ることに必死になってしまうのですね。

 

大人になって増え続けていく「過去」
遠のいて見えにくくなる「未来」

活かすも殺すもあなた次第
「さぁどうする?」って問う「現在」(きょう)も

 

僕たちは、勇気にカビが生えることで現状維持という執着への依存心が爆発的に増殖します。

過去の経験がまるで足かせとなって、自分に言い訳を許す口実に変化します。

そうなると、これらは「だって〇〇なんだもん」「〇〇なんだからしょうがないじゃん」という必殺技を繰り返し使う、自分自身にとってのヒール役と化します。

むしろ、自分の意志で過去に縛られることで、前に進もうとしなくて済むようにするのです。

「もう歳だし」「昔みたいに若くないし」という謳い文句は、自他を説得するのに絶好のタテマエとして機能してくれます。

そうして、未来と可能性の両方を放棄し、下を向いて生きることが板についてしまうのですね。

 

しかも、未来を放棄するからといって今を必死に生きてるかと言うと、そうでもありません。

今後も過去に依存し続けるか否かは今現在の自分の選択にかかっているという事すら忘れ惚けて、今現在ですらないがしろにして生きています。

 

外の世界に飛び出した勇敢な人たちは、「いつか辿り着くどこか」においてその決断をしたのではなく、「いまここ」においてその決断を下したがゆえに、いまも自由に生きることができています。

自分を偽ることを手放し、「かりそめ」の自分でいることから身を引くことで、僕たちは自分だけの人生を生きることができるのですね。

 

誰の真似でもない「あなた」がいるなら
笑われても、嫌われても
染まらないよ

偽って群れるぐらいなら
気ままに1人でいりゃいいよ、いりゃいいよ
嘘偽らずに

 

We’re going up and down, you know
We’re going up and down, you know
Say NO to the world
Say NO to the world

(僕らは行ったり来たりする存在だ 君もわかるだろう)
(上にも下にも行けるということを君も本当は知っているだろ)
(世界に対してNOと言え)
(依存と偽りの世界なら僕はそれを世界を拒むよ)

 

人によって、外の世界に出ることの意味はそれぞれだと思います。

ある人にとっては新しい仕事を始めることかもしれません。

また別の人にとっては、誰かに伝えなければいけない何かを伝えることだったりもするでしょう。

あるいは、自分がいま所有しているもの、たとえばお金や立場や経歴というものを手放すことが、外の世界に勇気をもって飛び出すことを意味していることもあると思います。

もしくは、これまでの人生で抱え込んでしまった固定観念や思い込み、歪んだ自己イメージや低く見積もった自己像としての限界を捨て去ることが、今までの世界から飛び立つことに紐づいているという場合もあるでしょう。

 

いずれにしろ、それらはすべて、自分自身と深く深く向き合うということです。

そういった意味では、僕たちが本当にNOと言うべきなのは、他ならぬ自分自身が自分の中につくりだした偽りの世界なのかもしれません。

 

いずれにしろ、今まで忙しさにかまけてずっと放棄し続けていた本当にしなければならない自分自身との対話をすることで、初めて自分の意思に炎がともります。

 

自分と何度も何度も話し合いを続け、時には喧嘩になり仲たがいしてしまったとしても、それでも投げ捨ててしまうことなく根気強く自分自身を見つめ続けたその結果として、気付けばいつの間にか外の世界に踏み出していたというのが、自分らしい自己実現を生きることの本質です。

 

世界を拒んだとしても、自分のことだけは拒んではいけません。

自分を拒みたくなる気持ちともちゃんと向き合い、その果てに辿り着く真の自尊心こそが、本質的な孤独の価値です。

 

そうして身につけた自立的かつ受容的な孤独は、温かみと広がりのある孤独であり、それはお互いの孤独を超越した他者との深い部分でも結びつきをもたらすものでもあります。

そのような人にとっては、自分と他人の境界線はあってないようなもの。

 

自己実現という自由な孤独を謳歌する人々は、内省的なお互いの繋がりにより真の調和を生み出すことで、それまで内側と外側を分離する存在だった輪の輪郭は、広がり続けていくようになります。

そして、その広がり続けた輪は、一周しグルンとひっくり返ることで、内側と外側の両方を包み込んだものになるのでしょう。

 

つまるところ、僕たちは、自分らしい音を奏でる唯一無二の存在として輝くことで、アルペジオという孤独の結びつきの中で自由に生きることができるのです。

真の孤独を内包した自立的なアルペジオ同士が紡ぎ出す繋がりは、真の調和で結ばれた美しいメロディとなるのですね。

 

[Alexandros]の歌う「アルペジオ」という楽曲は、凛とした曲調と共に、僕たちがいつの間にか忘れてしまったそんな孤独の尊さに気付かせてくれる、本当にカッコイイ曲ですね。

 

 

 

 

 

※このコラムの内容は、あくまでもマズロー心理学という眼鏡をかけた目で見た個人的な解釈であり、この曲の作り手・歌い手・演者の方々が込めてくれたメッセージの感じ方の一つです。

 

嫌われる勇気人気理由
嫌われる勇気はなぜ人気?9つの理由を著者の岸見さんのインタビューから整理 『嫌われる勇気』が発売されたのは2013年12月ですが、その後も異例のロングセラーを続け2020年時点ではシリーズ累計7...
Mr.Children「花 -Mémento-Mori-」/自分という存在の開花 ミスターチルドレンの「花 -Mémento-Mori-」という楽曲の歌詞には、マズローの語る自己実現における開花すること...
オレンジマズロー
関連記事