このコラムでは、マズローが提唱した欲求階層の「基本のキ」をおさえるべく、僕がAmazonで出版しているkindle電子書籍『マズロー心理学と欲求階層~自分の本音を思い出す~』の内容を簡単にまとめてみました。
マズローや心理学に興味のある方はもちろん、お仕事や人間関係で悩んでいる方もチョットした豆知識として楽しんでいただけるコラムだと思います。
もくじ
1.マズローってどんな人?
さて、「欲求階層」や「自己実現」というワードでも有名なアメリカの心理学者アブラハム・マズロー。
「欲求階層」や「自己実現」というこの二つのキーワードこそ一般的になっているものの、マズロー自身がどのような人物だったのかはあまり知られていないようです。
ということで、まず最初にマズローがどういった人柄で、心理学者としてどんなところが凄かったのかについて簡単に触れることで、彼が欲求階層を提唱した背景を紐解いてみましょう。
ここではまず結論から言うと、マズローは「心理学者の鏡」のような人物でした。
マズローは、人の心に対する研究においては本当にストイックな姿勢を貫いていたんです。
彼の厳格さや真実を突き詰めようとする真摯さは、マズローが書いた書籍を読むとスゴクよく伝わってくるんですよね。
ちなみに、その徹底した研究者としての姿勢と功績が称えられ、アメリカ心理学会の会長を務めるほどだったことは、日本においては意外と知られていないことかもしれません。
その一方で、性格はどのような人物だったのかというと、当時マズローと親しい間柄だった人物の印象によれば、マズローはとても愛情深い人柄だったようです。
それと同時に、マズローは子供心をけっして忘れない、好奇心と探求心に満ち溢れた人物でもありました。
マズローの著作『創造的人間』の翻訳者の佐藤氏は、この本のあとがきの中でマズローのこのような人柄について、「マズローに会った人は誰もが、彼が『愛と知の人』であることを知る」と語っています。
なんか、カッコいいキャッチコピーですよね(笑)
そのような人柄から、マズローは子供からも人気があったようです。
もっとも、マズローがこのような素晴らしい人格者であったことの背景には、彼の少し悲しい生い立ちが関係していたのではないかなと僕は思っています。
というのも、実はマズローは幼少期は非常に孤独な日々を過ごす少年だったんですよね。
詳しくは割愛しますが、マズローは両親の愛情を受けずに育ち、なおかつ学校でも友達ができない子どもでした。
そんな、家庭にもクラスにも居場所がなかったマズローにとって唯一の心安らげる場所だったのが、図書館だったのです。
マズローは、時間があれば図書館に通い大好きな読書に没頭するという日々を過ごしていたのですが、このことが功を奏してか勉学の成績は非常によく、高校は地域随一の進学校に通うことになります。
そしてその後は、紆余曲折を経てウィスコンシン大学で心理学を勉強したのちに、心理学者としての道を歩むようになるのです。
個人的には、マズローが心理学に興味をもち最終的に学者になるまでに至ったったのも、前述したような幼少期の経験があったからなのではないかなと、僕は勝手ながら思っています。
ちなみに、マズローが生まれたのは1908年で、自動車産業に革命を起こしたT型フォードがアメリカで生まれた年ですね。
2.マズロー心理学の特徴とは?
そのような経緯を経て心理学という世界に入ったマズローですが、結果的にマズローはメキメキと優秀な心理学者へと成長します。
そして結果的に、マズローの提唱した理論は当時のアメリカで大勢から支持されていた「行動主義心理学」や「精神分析学」に続く第三勢力として、それらのジャンルと肩を並べるようになり、最終的には「人間性心理学」という一つのジャンルを築くようになります。
そのような立ち位置のマズロー心理学ですが、その特徴は様々な切り口で説明できます。
ここで一つだけ大きな特徴を上げるならば、それはその立場がとても「肯定的」であったということですね。
どういうことかと言うと、先ほど登場した「行動主義心理学」と「精神分析学」はどちらかというと人間をネガティブに捉えてたのですが、一方でマズローは人間という存在をとてもポジティブに捉えていました。
マズロー心理学以前の心理学は、人間というものを物事にただ反射的に行動する動物的な存在として扱っていたり、人間のもつ衝動や性欲を抑制すべき悪いものとして扱ったりしていたのですが、マズローはこのスタンスに疑問をもっており、そのため彼は「人間の良い側面」や「内に秘めている可能性」に焦点を当て、人の心を研究していたのです。
冒頭でもワードが出てきた有名な「自己実現」という概念も、このような視点から見出されたものですね。
そして、人間に対するこの前向きなスタンスによって、マズローの考え方は別名「高天井の心理学」と呼ばれていたんです。
要するに、人間を低く見積もって限界値として低い天井を設定しその枠内で否定的に心について解き明かすのではなく、もっと大きな可能性を切り開いていこうとしたのが、マズローという人物だったと言えます。
もちろん、マズロー心理学の特徴は他にもたくさんありますし当然ながらそれに対して批判的な意見もあるのですが、このようなスタンスによって進められた研究がアメリカ国内のみならず世界的に大きな影響を与えたことは疑う余地がないでしょう。
だからこそ、遠いこの日本の地でもマズローの名は広まっているのでしょうし、ここ日本における彼の名前の認知度の高さがその功績の大きさを物語るなによりの証拠だと思います。
3.「欲求」ってなんで必要なの?
さて、そのような肯定的な見方で人の心の研究をしていたマズローは、僕たち人間がもつ「欲求」についてどのような考えをもっていたのでしょうか?
結論から言うと、マズローは欲求を理解することは人間の本質そのものを理解することになると考えていました。
そして、このような考えの背景にも先ほどの肯定的なスタンスが垣間見えます。
どういうことかと言うと、マズローはそれまで主流だった心理学とは違い欲求についても肯定的に捉えており、欲求というのは悪いものでないどころか良い側面が存在すると考えていたということです。
たしかに、実際のところ、欲求がなければ僕たちは豊かな人生を歩むことができませんよね。
もちろん場合によっては欲求に振り回されることもありますが、しかしながら人間には
「上手になりたい!」
「もっと成長したい!」
「より良い人生を歩みたい!」
「本当の事を知りたい!」
「更なる改善をはかりたい!」
「この先に進みたい!」
「新しい経験をしてみたい!」
といったような欲求があるからこそ、人間として成熟していきますし、毎日の生活をしっかり生きようと思えますし、文化としてのここまでの発展があったのではないでしょうか。
それに、そもそもですが、「ご飯を食べたい!」「寝たい!」という欲求がはたかなければ、僕たちは生きていくことさえできませんよね(笑)
このような意味で、欲求というのは、抑えつけるべきものではなく上手に向き合って共に歩んでいくパートナーのような存在なのです。
だからこそ、マズローは欲求を知ることは人間を知ることと繋がっていると考え、人の心を理解する糸口として人間に備わる欲求についての研究に没頭するようになるのです。
4.五つの基本的欲求とは?
マズローは、人間の欲求を五つに分類し、それらをまとめて「基本的欲求」と呼んでいました。
その五つの基本的欲求は「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「尊重の欲求」、そして「自己実現の欲求」の五種類になります。
なお、「所属と愛の欲求」を「社会的欲求」と呼んだり、「尊重の欲求」に代わって「尊厳の欲求」や「承認欲求」を当てはめたり、あるいはその「承認欲求」を自己承認と他者承認の二つに分けて説明されることもあります。
もしくは、最初の五つに「自己超越の欲求」を加えて六つの欲求として説明することもあったりしますね。
または、「自己超越の欲求」を加えた六つの欲求とした上で、「承認欲求」を自己承認と他者承認に分けることで、全部で七種類として説明している人もいるようです。
もう、ワケが分かりませんよね(笑)
実際に少しネットで調べると分かりますが、マズローの欲求階層に関しては情報が錯そうしすぎていて、書き手がそれぞれ自分の立場から言いたい事を言っていることも少なくないので、もはやどの情報が正しいのか調べれば調べる程こんがらがってしまいます。
ただ、一つ言えるのは、ネットに溢れるマズローの欲求階層に関する情報の中で実際にマズローの書籍をその目で読んで書かれたものはほとんどないということです。
つまり、多くの人が日本語訳されたマズローの原文に触れることなく、どこかで聞きかじった内容を集めてきてそれを横流しするという構図が、延々と繰り返されているだけなのです。
言うなれば、全く機能していない伝言ゲームがまかり通ってしまっているということになりますね。
一つの間違いが次の間違いを生み、そこで生じた誤解が更なる誤った情報を広げるという間違いだらけの情報網が、いまの日本のマズロー理論に対する理解の悲しい実情です。
そして、だからこそ僕は、自分自身でマズローが書いた書籍を全て読みました。
ちなみに、そのようなことをしたからこそ、世間にはマズロー関連の誤情報が溢れかえっていることに気づけたのです。
そうでなければ、自分が誤った知識を身に着けていることにも気づけなかったでしょう。
もっとも、先程のような悲惨な実情になっていることに関しては誰が悪いわけでもありませんし、正直に言うとマズロー自身にも原因の一旦があると僕は思っています。
というのも、実際に読んでみると分かるのですが、マズローの書いた本って本当に難しんですよね(笑)
しかも、書籍一冊あたりの文章量はさながら辞書一冊読むかの如く。
「こりゃ、マズローの主張を勘違いしたり、途中で放り投げて中途半端な知識を手にした状態で理解したことにしちゃいたくなる気持ちも分かるな~」というのが正直な感想です。
なおかつ、マズローの書いた本の中で日本語訳されて出版されているものは合計六冊あるのですが、本によって微妙に言っていることが違うではありませんか(笑)
これには、翻訳者の問題や年代の問題など様々な要因があると思うのですが、それも含めて何故マズローの話がこんなに誤解されて広まってしまうのかに関しては、このコラムの最後にリンクを張ってある別のコラムで解説しているので、興味ある方はあとで読んでみて下さいね。
さて、少し話がそれてしまいましたが、このような理由でほとんどの方がマズローの伝えていることを正しく理解できていません。
でも、だからといって、僕は自分がマズローの真意を誤解することはしたくなかったんです。
そうなるとやっぱり、六冊全部読むしかありません。
そして、六冊すべて読破した僕が辿り着いた基本的欲求の答えが、最初に提示させてもらった「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「尊重の欲求」「自己実現の欲求」の五種類の分類法なんです。
この五つそれぞれの詳細については一つのコラムには書き切れないので、今回はそれぞれの簡単な意味合いだけサラッとお伝えしておきたいと思います。
ここでは、大まかな結論だけ言わせていただきますね。
「生理的欲求」とは、「生きていたい!」という欲求です。
「安全の欲求」とは、「安心していたい!」という欲求です。
「所属と愛の欲求」とは、「誰かと繋がりたい!」という欲求です。
「尊重の欲求」とは、「自分と他者を大切にしたい!」という欲求です。
そして、最後の「自己実現の欲求」とは、「ありのままの自分で輝いていたい!」という欲求です。
ザックリとした内容で恐縮ですが、この解釈はマズローの真意から外れていない内容であるという点は自信をもって述べておきたいと思います。
5.正しい欲求階層ピラミッドはどれ?
さて、この五つの基本的欲求が階層構造をしていて、一つ目の「生理的欲求」から最後の「自己実現の欲求」まで下から順番に積み上がっているというのは有名だと思います。
これが俗にいう、「欲求ピラミッド」というやつですね。
ちなみに、上記のイメージ図は僕がつくったイメージ図の簡易バージョンになります。
しかし、この「欲求ピラミッド」の図は、実はマズローが書いたものでないということは知っていましたか?
つまり、巷でもよく目にするピラミッド型のイメージ図はマズロー自身は全く関与していないものなのです。
言い換えれば、このイメージ図に関してもネット上には色々なものが散見されますが、そのいずれもが、あくまでそれぞれが勝手につくって(あるいは誰か第三者がつくったものを持ち出してきて)いるだけなんです。
というか、マズロー自身が書いていないからこそ、あれだけ色んなパターンのイメージ図が横行しているとも言えますよね。
では一体、誰がこのイメージ図を最初に作ったのでしょうか?
結論を言えば、その人物はマズローのスポークスマン(意見発表の代弁者)のような役割を務めていた「フランクル・ゴーブル」という人物です。
彼が書いたピラミッド図が、現在世に溢れるあらゆるイメージ図のおおもとになっていると言えるでしょう。
なお、このゴーブルが書いたイメージ図についても、その内容が正しいのかどうなのか、あるいはマズローの欲求の理論を語る上で適しているのかどうなのかについては色々と考察できるのですが、それに関してこのコラムで触れるのは文章量があまりにも多くなるので控えさせていただければと思います。
ということで、このコラムでは結論だけ言うと、マズロー自身が書いたものがない以上、正しいピラミッド図は一つもないというのがいまのぼくの結論になります。
したがって、今冒頭で紹介させていただいた僕の書籍にもオリジナルのイメージ図を一応載せてはありますが、それも別に正解だとは思っていません。
とはいえ、僕個人としては、自分なりに考えに考えて、本の中のマズローの言葉を何度も読み返し、「アッチの本で言っていることとコッチの本で言っていることが違ってるんだけど!」「この表現ってどう解釈したらいいの!?」という謎解きゲームに頭を悩ませながら苦闘した末につくりあげた最善のイメージ図になっているので、その点においては誇りをもって人に見せられるものになっています(笑)
ということで、このコラムの最後の結論としては、マズローの提唱する欲求階層のイメージ図にはただ一つの正解なんてないと思うよ、ということで着地させていただければと思います。
もっとも、色々な方のイメージ図を参考にしながら一番自分にしっくりくるものを各自で選ぶのが良いのでしょう。
そして出来たら、やはり自分自身でマズロー書籍を読んでみることがベストですかね。
なお、冒頭の電子書籍は、マズローが書いたすべての書籍から「欲求階層」に関する内容だけをピックアップし集約したもので、実際のマズローの文章も引用しながら欲求について図解なども用いてわかりやすく紹介していますので、「欲求階層についてもっと知りたい!」「マズロー心理学ってちゃんと理解してみたら面白いのかも?」と思った方は、一度お手に取ってみてくださいね。
ではでは、最後までお読みくださり、ありがとうございました。