仕事

自己実現の欲求で仕事をする人々の39の仕事観/彼らのやりがいや喜びは何?

自己実現の欲求仕事
自己紹介

 

マズローは、高次動機で生きる自己実現している人々が、どのような価値観で仕事をしているのかについて、とても詳細に語ってくれていました。

自己実現している人々が、何を大事にし、仕事には何を求めているのか?

あるいは、彼らは仕事におけるどんなことに価値を感じ、仕事にはどのような意味づけをしているのか?

もしくは、仕事の何にやりがいを感じていて、どんな喜びを見出しているのか?

今回は、このような、マズローが「自己実現者」とも呼ぶ自己実現している人々の「仕事観」についてまとめてみました。

なお、この記事の内容は、マズローが自己実現と関りが深いとした「B価値」ということについてまとめたコチラの記事を先に読むとより理解が深まるので、まだお読みでない方はこの記事を読んでからの方が内容をしっかり吸収できるかと思います。

 

1.あらゆる仕事観の前提

自己実現欲求仕事

 

マズローは、彼の代表作である『人間性の最高価値』という著書における「高次動機の理論」という章のなかで、自己実現者(自己実現している人)たちの仕事観について詳しく記述してくれています。

その内容の冒頭でマズローは、自己実現者たちに仕事を愛する理由を尋ねると、一般的な人々とは異なったとても特殊な答えが多く得られたと語っていました。

ちなみに、マズローが自己実現者たちに尋ねたその質問というのは、より具体的には下記のような項目だったそうです。

 

・仕事において高度の満足を覚えるのはどのような点か
・どんな報酬が、仕事に必要なすべての雑用を価値のある受け入れられるものにするのか
・どのような時が、最高の瞬間、至高経験になるのか…etc.

 

マズローは、このような質問に対する自己実現者たちの解答から分かった彼らの仕事観の特徴を29個の箇条書きでまとめてくれています。

 

また、マズローは自己実現者たちの仕事観を箇条書きで整理した記述の冒頭で、次のような前書きをしています。

 

「仕事を通じてなり、その他の方法なりで得られる、自己実現する人びとの動機とその満足」

 

つまり、この後で見ていく内容は、自己実現者たちの仕事をする上でのモチベーションになっている物事実際に満足を感じる要因に、主にフォーカスしているということですね。

このような前提のもと、まずは一つ目の仕事観として、自己実現者たちの善悪や倫理的な側面における考え方について触れてみましょう。

 

2.善悪・正義に関する仕事観

善悪

 

自己実現者たちというのは、善悪や正義に対する意識が高いとマズローは述べていたのですが、下記は『人間性の最高価値』における実際の箇条書きの最初の部分の引用になります。

 

・自己実現する人びとは、正義をもたらすことを喜ぶ。

・彼らは、残酷な行為と搾取を阻止することを喜ぶ。

・彼らは嘘や虚構と戦う。

・彼らは徳が報いられるのを好む。

・彼らは、幸せな終結、立派な完成を好む傾向がある。

・彼らは罪や悪行がおこなわれたり、人びとがそのような行為をうまくやりとげるのを嫌悪する。

・彼らは悪を徹底的に追求する。

・彼らは物事を正しい状態に保ち、悪い状態を一掃しようとする。

・彼らは善を楽しんでおこなう。

・彼らは、将来の可能性、才能や徳行に報いこれを賞賛することを好む。

 

ご覧いただいて分かるように、29個の箇条書きの最初にマズローが記していたのは、このような善悪や正義に関する内容だったのですが、これは自己実現者たちというのが如何に「正義」「正しさ」「善行」などを重要視しているかが分かる内容ですね。

 

マズローが、人間が本来目指すべき究極的価値と定義した14個の「B価値」においてこの内容を当てはめてみると、B価値の中の「真実」「善」「完成」「正義」の四つが当てはまると言えるでしょう。

 

また、箇条書きの最後から二番目の、自己実現者が善を楽しんでおこなっているというのも注目すべきポイントですね。

自己実現者たちにとっては善を生きることが義務感や自己犠牲ではなく楽しみになっているということの背景には、彼らが世の中の常識や社会通念を盲目的に受け容れたりせずに自分のなかで成熟させた独特の倫理観をもっていることが関係していると言えるでしょう。

言い換えれば、自己実現の過程で彼らが手に入れた真の倫理観は、善を楽しんで行うことを可能にするのですね

 

なお、この善を楽しむことをB価値に当てはめると、「無礙(むげ)」「遊興」が該当すると思います。

このことからも、マズローが14個のB価値というものはそれぞれが独立せずに全体が有機的につながることによって一体化していると考えていたことを感じられたりもしますね。

 

また、こと「真実」や「虚偽」に関する話で言えば、自己実現者たちは他人に対して嘘をつかず正直であるというだけでなく、ほかならぬ自分自身に対しても嘘をつかないという特徴があります。

だからこそ、彼らは本当の自分自身をありのままに表現することで、仕事を通して社会と調和する自己実現をはたすことができるのです

 

この「自分に嘘をつかない」というのは口で言うのは簡単ですが、実際にそれを生きようとすると結構難しいものです。

しかし、自己実現の欲求で生きている人々は、自分の心の声をちゃんと聞き取ることができ、またそれに従う勇気も持てているため、自分の素直な欲求で生きることで仕事を通した自己実現へと邁進することができるのですね。

言い換えれば、彼らは自他の両方と誠実な関係性が構築できているのでしょう

 

ちなみに、先程引用した一連のまとまりとは別の部分の箇条書きにも、これらの内容への理解を深めてくれるものがあります。

 

・彼らは混頓とした状態、混乱し乱れた状態、あるいは不潔な汚れた状態の中で、法と秩序を回復することに喜びを覚える。

・彼らは、堕落や残忍性、悪意、不正直、尊大、虚偽、まやかしを憎み、(これと闘う。)

・彼らは卑劣な行為をせず、他人の卑劣な行為に対して腹を立てる。

 

 

3.評判・名声に関する仕事観

 

マズローは、自己実現者たちの真の自立心についても注目していました。

そして実際、マズローが整理してくれた自己実現している人々に共通する15個の特徴の中にも、自立や独立に関する項目があります。

つまるところ、自己実現している人々は他人や社会に依存せずに、本質的な自立心をもって外的な要素から心理的な独立を果たしているのですが、この事について仕事という側面からマズローが整理した箇条書きが下記になります。

 

・彼らは、評判、名声、栄誉、人気を避けるか、少なくともこれを求めることはしない。 いずれにせよ、あまり重要だと思っていないようである。

・彼らは、誰からも愛されることを必要としない。

・彼らは一般に、広告や宣伝活動や他の人びとの勧告に左右されないで、数は少なくとも、自分で自分の主義を選びとる。

 

「自己実現の欲求」で生きる条件には、欲求階層におけるこの欲求より下位に位置する欲求が健全に満たされていることが挙げられますが、上記の内容はまさにこのことを物語っていると思います。

言い換えれば、自己実現している人々は「尊重の欲求」や「所属と愛の欲求」がしっかりとした形で満たされているからこそ、このようなスタンスで社会と向き合いながら仕事をすることができるのですね

 

「尊重の欲求」に含まれる承認欲求が満たされなければ、世間の評判や、他人から与えられる名声や、社会的な人気を獲得することばかりに意識が向いてしまいます。

真の自己実現者たちは、これらの欲求が自立的に満足できているからこそ、名声や栄光などには目もくれず世の中から一定の距離を保ちながら、自分の自己実現を極め続けることができるのでしょう。

 

また、「所属と愛の欲求」に含まれる「愛の欲求」に関しても、自己実現をしている人々はこの欲求が満たされているが故に他者から愛されることを渇望しないだけでなく、その一方で他者を本質的な意味で愛することができるという特徴もこの箇条書きの内容から見てとることができます。

「愛の欲求」がしっかりと満たされていない人ほど愛に飢えているため、依存的な関係性を築きがちであり、ひいてはそれが真の自立を邪魔してしまっているのです。

 

また、上記の箇条書きの最後の項目であった広告宣伝に関する内容も、自己実現者のもつ15の特徴である「外部要因からの独立」「社会との適切な距離感」の内容と親和性が高いものですね。

マズローは、自己実現者たちは鋭い視点と広い視野と高い視座から社会の本当の姿を見ることができると述べていましたが、一方的に浴びせられ続ける広告宣伝に一方的にコントロールされることなく、自立した価値観と自分軸の判断基準で人生を進んでいけることの背景にこういった特徴があります。

だからこそ、彼らは自分にとって本当に望ましい仕事に就くことができ、またその仕事を通して実現する成果も、本質をついたものになっているのでしょう。

 

なお、このことは少し前に触れた倫理観とも繋がっていることでもありますね。

平たく言えば、真の倫理観を持てているが故に、彼らは社会に依存することなく自立的なスタンスで自分の仕事を極めることができるということになるでしょう。

そしてその背景にはもちろん、「尊重の欲求」や「所属と愛の欲求」などの基本的欲求が健全に満足できているという土台があるのです。

言い換えれば、自己実現者たちの仕事観のベースを築いているのが、ほかならぬ基本的欲求の満足がもたらす真の自立心にもとづいた独立的な在り方なのだとも言えると思います

 

ちなみに、マズローは先ほどの一連の流れではない部分における箇条書きでも同じような特徴を挙げていました。

 

・彼らは、甘言や賞賛、人気、地位、名声、富、名誉などを必要としたり求めたりせず、これらをたいして喜ぼうともしない。

・彼らは、自己を幻想から解き放ち、目かくしを外して、勇気をもって事実を見ようとする。

 

 

4.競争・戦いに関する仕事観

 

僕たちは、仕事をする上ではなにかと「競争」や「勝ち負け」という側面に引っ張られがちです。

もちろん、そういった要素にも良い面はありますが、それも度が過ぎてしまうと生きづらさを感じたり、自分のなかの恐怖心や不安にばかり従うようになったり、場合によっては心の病をもたらしたりします。

 

一方で、自己実現者たちというのは、競争心や争いごとによって自分を見失うことはありません

このような背景にも先ほどの自立の内容が関係していると言えそうですが、いずれにしろ、マズローは「戦い」や「闘争」という側面における自己実現者たちの仕事観についても以下のような形で説明してくれています。

 

・彼らは平和や平穏、静寂、快さなどを楽しみ、紛争や闘争、戦争などを好まない傾向がある。(彼らは前線で戦いを指揮する人間ではない。) 彼らはまた、「戦争」の最中にあって楽しむこともできる。

・彼らもまた、実際的現実的で要領がよく、現実離れしてはいないようである。彼らは効果的であることを好み、不成功に終ることを好まない。

 

自己実現者というのは、基本的には平和を好みます。

しかし、彼らもときには戦いに挑むこともあります。

とは言っても、その戦いは利己的なものであったり単なる自己防衛からくるものではなく、もっと広い視野でとらえた理由に基づくものです。

言い換えれば、彼らは個人的な恐怖心や不安から戦いに挑むのではなく、真の正義感や使命感・責任感によって戦いに挑むのだと言っても良いでしょう

 

それと同時に、彼らはあらゆる意味で成熟しているため、実際に戦いを挑む際もとても現実的な対処ができるので、結果としてもたらされる成果も自他にとって本質的に望ましいものになっています

 

なおかつ、自己実現者のもつ15の特徴の一つでありB価値の一つでもある「ユーモア」を忘れることもないので、彼らは真剣でありながらも深刻さに取り込まれることはなく、どこかリラックスした心持ちで戦いに望んでいるので、それを楽しむ余裕すらあるのです

もしくは、自己実現者特有の純粋な好奇心や探究心といったものから、さながら子どもが遊びに没頭するように自分の素直な「楽しい!」という気持ちから仕事に取り組んでいるが故に彼らは競争すらもアトラクションやエンターテイメントに昇華できるのでしょう

 

いずれにしろ、このようなスタンスで仕事に取り組むことによって、彼らは競争や勝負事ですら優雅に自分の自己実現と紐づけることができます。

つまるところ、自分の中に内包している世界観がゆとりとしたたかさを兼ね備えているからこそ、取り組む仕事がたとえ競争や勝負という面が強かろうとも、それが自分の自己実現を歪める理由にはならないのですね。

これは、自己実現者があらゆる物事を対立や矛盾させることなく高い次元で統合し調和することができるが故の特徴とも言えると思います。

 

いずれにしろ、このような仕事観でなされる仕事は、自分と世界をより良い方向に導くものになるのは当然なのかもしれませんね。

 

ちなみに、先ほどの一連の箇条書きとは離れた箇所にも、これを補足してくれる箇条書きがあります。

 

・彼らは仕事の上での挑戦に受けて立つ。

・彼らは喜んで責任をとり、(立派に果たすことができる)責任を恐れたり避けたりすることは決してない。 責任感が強いのである。

・環境や作業過程についての改善の機会が、大きな報酬となる。彼らは物事の改善を楽しむ。

・彼らは神秘的な未解決の問題、未知の挑戦的なものを恐れるよりもむしろ、魅せられる傾向がある。

 

 

5.問題解決に関する仕事観

 

マズローは、自己実現者に共通して見られる特徴として、彼ら特有の広い視野に伴なう使命感を挙げていました。

これは、普通の人々が「自己中心的」であるのに対し、自己実現者たちがそれとは対照的な「問題中心的」であることに関連しているともマズローは表現しています。

平たく言えば、自己実現者たちの仕事をする理由は、「自分の個人の幸せ」を超えた「社会全体の幸せ」のためであり、その背景には広い視野に伴なう使命感があるということです

 

言い換えれば、「自分の問題解決のため」に仕事をするのではなく、「社会の問題解決のため」に仕事をするということであり、その中心には「自分」ではなく「問題」がまず存在しているという意味で、「自己中心的」ではなく「問題中心的」であるということですね。

なお、このことは、先述した基本的欲求が健全に満足できていることが関係しています。

つまり、自分の基本的欲求がしっかりと満たされているからこそ、彼らは自分よりも他者や社会の問題の方に意識のベクトルが向くのです。

 

したがって、自己実現している人々は、このような大局的な世界観で自分の仕事をしているということであり、その具体的な内容が下記になります。

 

・彼らは、敵意や妄想、傲慢、権力、反抗、その他の口実としてでなく、物事を正しい状態に置くために闘う。問題中心的である。

・彼らはともかくも、世界をあるがままで愛すると同時に、これを改善しようと努力することができる。

・あらゆる場合に、人間も自然も社会も改良できるという希望が見られた。

・あらゆる場合に、彼はあたかも善と悪の双方を現実的に見ることができるかのようであった。

 

マズローの語る自己実現には、対象のありのままの姿を受け容れるという特徴があるのですが、これは自分のありのままを受け容れるだけでなく、自分以外の物事に関してもそのありのままの状態を受け容れるということです。

だからこそ、彼らは本当の意味で自他を愛することができるのですが、これは何も問題事に抵抗しないという意味ではありません。

自分の子どもを愛しているからといって、まったく叱ったりしないのと同じ事です。

むしろ、本当に子どものためを思うのであれば、時には毅然とした態度で厳しく接することが愛するということですよね。

 

そのような意味において、自己実現者たちは世界を受け容れ愛すると同時に、それを更により良く改善しようとするのです

そこには、敵対感情や自己保身などは一切ありません。

権力や地位を手に入れるためでもなければ、おごりや盲目的なプライドを守るという目的も存在していません。

このようなことの背景にも、彼ら特有の統合された広い視野に伴う大らかな世界観と、「尊重の欲求」を筆頭とした基本的欲求の健全な満足という土台があるのでしょう。

 

つまるところ、自己実現者たちは、自分の内面が自立的なかたちでしっかりと満たされているからこそ、仕事の中心に社会の問題解決を据えることができるのですね

なおかつ、それが自己犠牲や不必要な我慢を伴っていないからこそ、そうして行われる仕事が自分の幸せにも直結しているのだと思います。

 

また、このことは、マズローが自己実現者たちがしている仕事を別の角度から捉えた際に語った、「自分の内的問題の解決と社会問題の解決が一致している」という特徴とも繋がっていることと言えます。

さながら、優れた画家が自分の内面と向き合う過程で創り出した作品が社会の問題解決や受け手の課題解決に紐づいているが如く、自己実現を生きる人というのは職種に関わらず、自分の内面の探究が外側の世界をより良い世界にすることとひとつながりなっています

そして、その背景にこそ、真の受容性を内包した愛があるのでしょう。

だからこそ、彼らは自分の内的問題の解決と社会の問題解決の境目がなくなり、一方の問題解決が双方のより良い変化を促すのですね。

 

ちなみに、このことへの理解を深めてくれる他の箇条書きには、下記のようなものが挙げられるます。

 

・観察結果から、一般に彼らが子ども好きであり、子どもたちがよいおとなへと成長をとげるのに喜んで力を 貸すことがわかる。

・感謝の意を表明し、少なくとも自己の幸運をよくわきまえているのが常である。 彼らは身分には義務が伴うということを十分に認識している。子どもに対するのと同じように、忍耐と寛容をもって接するのが、優越者、目覚めている人間の義務だ、とする意識である。

 

 

6.スキルの向上に関する仕事観

 

マズローは、自己実現というのはある種の到達点であるものの、過程としてのプロセスそのものでもあると考えていました。

実際、自己実現の欲求というのは、五つの基本的欲求のなかで唯一の「成長欲求」であり、成長欲求には完全な欲求満足というものがありません。

 

つまり、自己実現には終わりはないんですね。

 

言い換えれば、「自己実現をし続ける人」が真の自己実現者であり、実際彼らの仕事観もそのような飽くなき成長への向上心・探究心によって築かれていてます

そして、それゆえに自己実現者たちは自分の仕事の価値をしっかりと捉え続け、必要なスキルや技術をより向上させたり洗練させることに心血を注いでいます。

 

マズローは、この視点でも下記のような形で自己実現者たちの仕事観を整理してくれています。

 

・彼らは一致して、自分の仕事が価値のある重要なものであり、基本的であるとさえ考えている。

・彼らは、物事を上手におこなうこと、「仕事をうまくやったり」「する必要のある事柄を満足におこなうこと」を好む。多くのこのような表現が「すぐれた仕事の腕前」につけ足される。

・彼らは、能率を上げること、仕事をきちんとまとめ、密度の高い、簡単で速度の速い、安価なものにし、よりすぐれた製品を作ること、少ない部品と手間で無駄を省き、円滑で容易で確実、安全で「優雅で」骨の折れないものにすることに喜びを覚える。

 

つまるところ、自己実現者たちというのは、仕事を通して自分の能力を高め、それにより自分の可能性をどんどん開いていく人々なのです

そこに職種や実務の違いは関係ありません。

その成果物やアウトプットの形がどのようなものであれ、彼らは自分が生み出す商品やサービスの量や質をベストなものにし続けることに妥協をしないのです。

 

この内容を、ここまで見てきた他の側面での仕事観を併せて考えれば、「どうやったらもっと顧客を満足させられるか?」ということを突き詰めることが自己実現であるとも言えるかもしれません。

それは仕事の効率性やスピードを上げることかもしれませんし、製品の価格を抑えることで購入者の満足度を上げることに注力する場合もあるでしょう。

あるいは、組織のチームワークを向上させたり、従業員の満足度をあげるという方法で、仕事の価値を高めることもできると思います。

いずれにしろ、それらの根底にある価値観が自分の従事する仕事への揺るぎない意味づけであることは間違いないでしょう

 

また、このような仕事への意味づけをより強固なものにしているのが、彼らはその仕事をすることを心から楽しんでいるという要素になりますね

これは、「お金を稼ぐため」や「周りから評価されるため」であったり、「社会から置いてけぼりにされないため」といったような「自己中心的」な仕事観ではなく、先ほど触れた「問題中心的」な仕事観で最も自分に適した愛すべき仕事をしているからこそ、それが可能になるのです。

自分の仕事への意味づけも、自分自身への意味づけも、健全な自信によって構築されているが故に、このようなスタンスが確固たるものになっているとも言えると思います。

もし、仕事と自分の関係性が依存的だったり恐怖心だけで結びついているものであれば、このような仕事観は形成されないでしょう。

 

言い換えれば、自身の向上心や成長欲求が強固なものになっている背景に、これまで見てきた他の価値観があるということです。

また、繰り返しになりますがその土台に据えられているのが基本的欲求の満足であり、だからこそマズローは基本的欲求の五番目に自己実現の欲求を位置付けていたのですね

そういった意味では、仕事における向上心がないわけではないのに、仕事が続かなかったりモチベーションが下がってしまったりする理由は、基本的欲求の満足ができていないことがあるのかもしれません。

 

いずれにしろ、自己実現者たちは、自分の基本的欲求とちゃんと向き合い続けてきたからこそ、自分が本当に成すべき自分にしかできない仕事を楽しむことができるようになり、なおかつ仕事で成果をあげ社会に貢献することで更に自分を満足させることが出来るのだと思います。

 

言い換えれば、「自分の仕事の向上」が「社会への価値提供」としっかりと紐づけられているからこそ、自分の自己実現の欲求に従いスキルを向上させることで、それが自分と社会の双方を満足させているということですね

 

 

7.才能・可能性に関する仕事観

 

自己実現者たちの最後の価値観は、人に備わる才能や可能性、あるいは若い世代への教育に関わる仕事観についてのものです。

 

マズローが質問を投げかけた自己実現者たちは、人間に備わる才能や、内に秘めたる可能性を発揮させることを特に重要視していました

また、彼らは自分自身の才能や可能性だけでなく、周りの人々の才能や可能性についても同様の認識をもっています

 

この背景には、僕たち人間には誰しもにその人オリジナルの人間性というものがあり、その個性を活かすことで自己実現を果たせるという考えがあります

むしろ、自分らしい仕事や自分にしかできない仕事をしなければ、人の心は病んでしまうか、感性・感受性・創造性・オリジナリティなどが消えてしまうとマズローは述べていました。

誰にでも出来る仕事、代替可能な仕事、自分に向いているとは思えない仕事、本当はやりたくないと思っている仕事をすることは、僕たちを人間であることからどんどん遠ざけてしまうのですね。

 

自分の可能性を最大限に発揮して仕事をしている自己実現者たちは、誰もよりもそのこと理解しているからこそ、周りの人々が自分の可能性を閉じてロボットのように働いていることに対して特に問題意識をもっていたのでしょう。

それが、年齢の若い人であれば尚更で、特にマズローがコミュニケーションをはかった自己実現者たちはある程度歳を重ねた人々であったため、この特徴は顕著に見られたのだと思います。

 

いずれにしろ、真の自己実現者というのは年齢を言い訳に自己実現をあきらめることなど決してせず、だからこそ年齢に関わらず他の人々の自己実現を手助けすることに価値を見い出していたのでしょう。

 

・彼らは、才能が無駄にされるのは嘆かわしいと感じる。

・彼らの考えでは、すべての人が自己の可能性を最高に伸ばし、公平で平等な機会をもつべきだ、と感じている。

・彼らは、他の人びと、とくに若い人びとの自己実現を見つめ、これを助けることに喜びを覚える。

・彼らは幸福を見るのを喜び、その実現に協力する。

・彼らは、賞賛に値する(勇敢で正直な、実行力のある「率直な」「偉大な」創造的な、聖者のような、等々)人びとを知ることに大きな喜びを感じる。「仕事によって、多くの立派な人びとと接触できるようになる」のである。

・上役の利点は、会社の財政を動かし、力を貸すべきすぐれた目的を選択する権利をもつ点である。彼らは、重要ですぐれていて価値があるなどと思われる目的のために、自分の資金を喜んで投じる。博愛事業に喜びを感じるのである。

 

マズローいわく、自己実現者の周りには「自己実現の欲求」が強い人が集まりやすいそうです。

「類は友を呼ぶ」ではありませんが、自己実現というのは同じような仕事観で生きている人同士を引き寄せる性質があるのかもしれません。

あるいは、少し前に触れた「社会との距離感」をとった者同士は、辿り着く場所が似ているということも言えると思います。

いずれにしろ、そのような全体性のなかで巡り合う人たちと、手を取り合いながらお互いの自己実現を促進し合うのが自己実現者たちの特徴なのでしょう

 

そしてそれは自己実現している人に限らず、自分に眠る可能性を開花させようとしている蕾のような状態の人や、自分の恐怖としっかりと向き合おうとしている人たちも含まれています。

もしくは、既存の社会への違和感を感じていて尚且つそのことについて深く考えた上で何かしらの行動をとっていたり、あるいはどうしてもそこに適合できずにその枠組みからはみ出してしまった人もいると思います。

いずれにしろ、いまの人生において自分の自己実現をはたそうとしている人に、自己実現者はそっと手を差し伸べるのです

そのことが彼らの喜びであり、そのためにお金が必要なのであればそれを使いますし、その中でときに権力や立場を行使する必要性が出てくればそれを使うこともいとわないのです。

 

ちなみに、このことは彼らが評判や名声を求めないことと矛盾することではありませんし、むしろここぞという勝負時に勇ましく立ち上がり戦いに挑む姿勢と一致する話とも言えますね。

 

もっと言えば、自己実現者はそのために自分の能力やスキルを向上させており、その背景にこそ彼ら特有の広い視野や真の倫理観や正義感、自己都合ではなく問題中心で物事を捉えることができる能力があるのだと思います。

 

そういった意味では、彼らの仕事観というのは、全てがひとつながりになっているものなのですね

マズローが箇条書きにして整理してくれた29個の要素というのは、自己実現の名のもとにすべてが見事に統合され調和されているのです。

 

 

8.まとめ

 

さてさて、ここまでで29個の箇条書きをすべて網羅することができたわけですが、最後に忘れてはならない大切なポイントがあります。

それは、先程お伝えした29個の箇条書きがすべて結びついていることに関連することです。

 

先ほど、29個の箇条書きの内容は自己実現という名のもとに統合されており調和し合ってもいると述べましたが、このことは、自己実現者たちが大切にしている価値であり彼らが自分の人生を通してその価値を追求し続けていたB価値と同じ特徴だと言えます

そういった意味では、これら29個の仕事観というのは、B価値というものを「仕事」という切り口で捉えなおした内容なのだとも言えると思います

 

その上で、改めて確認しておきたい事が、自分が自己実現するか否かに関わらず、マズローが伝えてくれていたこれら自己実現者たちの仕事観というのは、僕たちが自分の仕事を通して幸せな人生を生きる上で多くのヒントを与えてくれるものであるという事についてです。

結論だけ言えば、仕事内容や職場環境といったような「何をやるか」や「何を手に入れるか」という「Do」や「Have」という自分の外側におけるハード面に目を向けることも大切かもしれませんが、ここまで触れてきた「どう在るか(Be)」という仕事観を今一度見直すことが、自分の仕事をより良いものにする上では大切なことのではないでしょうか

 

ちなみに、マズロー自身も、29個の箇条書きの後で、下記のようなことを述べてくれています。

 

これらの報酬の種類は、分類して少数の範疇にまとめることができる。これをおこなってみると、ただちに、最もすぐれた「自然な」分類は、真実、美、新鮮さ、独自性、正義、密度の高さ、簡潔、善、整然、能率、愛情、正直、無邪気、改善、秩序、優雅、成長、清潔、確実性、静寂、安らぎ、その他類似の、究極的で還元しがたい抽象的「価値」と、ほとんどあるいは完全に一致することが明らかになった。

 

ここでマズローが述べている『究極的で還元しがたい抽象的「価値」』とは、言うまでもなく「B価値」のことですね。

また、この文章の続きでマズローは、自己実現者たちにとっての仕事はこれら究極的価値(B価値)の運搬者・道具・化身になっているようであると述べています。

つまり、彼らにとっては、仕事自体は「B価値」という目的のための手段であって、目的そのものではないのです。

平たく言えば、仕事の業務内容自体は、自己実現者にとってはそれほど大事なことではなく、最も重要視していることが「B価値」の実現・追求であり、B価値を生きることであるということですね。

言い換えれば、「真実」「美」「正義」「独自性」といった究極的価値を実現するために彼らは仕事をしているのであり、実務的な仕事内容はそのための手段に過ぎないのです。

 

なお、このことは自己実現者の15個の特徴である「目的と手段の区別と統合」の話とも一致しており、つまるところ、彼らは仕事をする目的とそのための手段を混同することなく、それゆえに両者は高い次元で統合されているということです

だからこそ、彼らは目的を見失うこともなければ、目的へと至る過程そのものを楽しむこともできるのです。

 

なおかつ、マズローは、人はこのような状態になっている場合、その動機づけは自己実現の欲求(成長欲求)などの高次欲求だけでなく、他の四つの基本的欲求(欠乏欲求)ないしは、マズローが心の病気により基本的欲求とすり替えられると説明していた「神経症的な欲求」にさえ動機づけられる場合があるとまで述べています。

つまり、仕事における目的と手段が統合された自己実現者は、自己実現の欲求ではない他の欲求でさえも、自らの自己実現の手段として適切なかたちで使うことができるということです

実際、マズローは29個の箇条書きの冒頭説明でも、自己実現者の中に「自分は赤ん坊が好きで、仕事をする理由はただそれが好きなのだからとしか言えない」と答えた人や、「工場の能率を上げることに刺激的な喜びを感じ、それが快感だから自分は仕事をしている」と答えを述べた人のように、「仕事をB価値の追求のための手段としてではなく、仕事自体を目的と見なす解答」も見られたことを明かしています。

つまり、彼らにとって仕事は手段ではなく目的そのものなのですが、このことを「目的と手段の区別と統合」という視点で捉えれば、彼らにとっては手段と目的が一体化しているのであり、それがB価値の追求と一致しているということが言えるでしょう

事実マズローは、この文脈のまとめとして、『至高経験や真の快楽、価値ある成就は、いかなる程度のものであっても、それ以上の正当化や確認を必要としない。それらは、真の強化者なのである。』とも述べており、つまるところ、理由や根拠を必要としないがゆえに彼らは仕事に没頭することができ、それゆえに彼らは手段と目的が一体化してもいるし、仕事を通して自己実現を深め、B価値を極めることがナチュラルにできると言えます

「お金のため」「権力のため」「他者から認められるため」という目的を達成するための手段として仕事に取り組んでいては、このような自然体の自己実現はできないと思います。

言い換えれば、純粋無垢なピュアな動機、すなわち「だってそれが好きだから」「楽しいから」「興味をそそられるから」といったような自然な澄んだ自分の気持ち、あるいはそれ以上の理由や説明を必要としない動機で仕事に望むことで、仕事を通しての自己実現は成されるという側面があるということですね。

 

いずれにしろ、これらの背景にある彼らの中で形づくられている価値観こそが、ここまで見てきた29個の仕事観なのでしょう。

それを上手く言葉にできなくとも、あるいは一周回ってもはや理由が理由ではなくなっていたとしても、これらの仕事観を感覚的に内に秘めている人々が、真の意味での自己実現者なのだと思います。

 

なんだか、考えれば考えるほど頭がこんがらがりそうにもなりますが(笑)、少なくともここまで触れてきたマズローが整理してくれた29個のメッセージの一つ一つとじっくり向き合うことで、僕たちは仕事を通しての自己実現とは何なのかを、自分なりの言葉と感覚において腑に落とすことができるようになるのだと思います。

 

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