超越論

自己超越した有名人とは?マズローが選んだ4名の超越者と自己実現者との違い

自己超越有名人
自己紹介

 

マズローは、自己実現する人を「自己実現者」と呼ぶ一方で、その自己実現を超えた人々を様々な表現で言い表していました。

その呼び名の一つに、「超越者」というものがあります。

今回は、そんな「超越者」たちについて、マズロー自身は誰を具体例に挙げていたのかについて掘り下げていきたいと思います。

なお、マズローの口から出た具体的な超越者の名前は4名だったのですが、その4名はみな世界的に活躍している有名人であり、その中にはマズロー心理学ではお馴染みのアノ人はもちろん、日本でも有名な人物もいたりしますよ。

 

1.自己実現者には二種類いる?

自己超越

 

さて、具体的な超越者のリストアップの前に、そもそも「超越者」とは何なのかを整理しておきましょう。

そうしないと、なぜマズローがこの後登場する彼らを超越者としてピックアップしていたのかが分からないだけでなく、ここを誤解すると自己実現や超越というもの自体を正しく理解できないですからね。

 

ここではまず結論から言うと、マズローは、自身の心理学者としてのキャリアにおける後年において、至高経験の有無で自己実現者を分けることを思いつきました

つまり、最初に自己実現について論じていたタイミングでは一緒くたにしていた両者をその後で分けるようになり、「至高経験のある自己実現者」と「至高経験のない自己実現者」を区別して自身の理論を構築をするようになったということですね

 

ちなみに、至高経験とは何なのかについては下記リンクのコラムでまとめているので、後ほどお読みいただければと思うのですが、ここではザックリとした説明だけすると、至高経験とは人生の最も幸福な瞬間、恍惚、歓喜、 至福や最高のよろこびの経験を総括したものです。

至高体験
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このような経験の有無、あるいはこの至高経験が起こる頻度によってマズローは自己実現者を二つのグループに分けたということになります。

そして、至高経験が多い前者の自己実現者たちをマズローは「超越者」と呼び、自己実現理論の先にある超越論の研究対象として捉えていました

この事について、超越論について特に語られている著書である『人間性の最高価値』の中で、実際マズローは次のような表現で述べています。

 

自己実現者には、至高経験が多くそれを大変重要視しており、の中心にさえなっている人びとと、超越経験をほとんどあるいはまった くもたない人びとに分けられる(等級で分けたほうがいいかもしれない)

 

ちなみに、少し余談になりますが、Wikipediaの「自己実現論」の説明では超越者に12人の人物をマズローが挙げているとの説明があるのですが、実を言うと日本語訳されている6冊のマズロー著書の中ではそのような記述は一切なく、Wikipediaのこの記事の出典先に信憑性がないことから個人的にはこの情報は誤情報であるというのが今のところの僕の見解になります。

 

話が逸れてしまいましたが、いずれにしろ、至高経験があまりないタイプの自己実現者の特徴を述べるキーワードとして、マズローは「現実的」「有能」「世俗的」などといった言葉を選んでおり、その具体的な人物にも政治家や有能なビジネスマンや大統領などを挙げていました。

言うなれば、このタイプの自己実現者は感性よりも理性的であり、抽象的よりも具体的な世界に生きている人々と言えるかもしれません。

あるいは、マズローは彼らの行動様式を「効果的」「実際的」であると表現していたり、現実検証に優れていると述べている点などからも、このタイプの自己実現者たちへのイメージが湧いてきますね。

 

ということで、このような前提のもと、この後は至高経験が多い自己実現者でありマズローが超越者と呼んだ人々について詳しく掘り下げていきましょう。

 

2.四名の超越者とは?

自己超越有名人02

 

さてさて、先ほどの引用文にもあった、至高経験が多いだけでなく、それを重要視していて尚且つ至高経験が人生の中心にすらなっているような人たちは、いったい誰だったのでしょうか?

彼らは、マズローが「B認識」と呼ぶ認識をもった本質的な価値の次元で生きている人であると同時に、二分法を超えた統合的意識や存在の次元で生きている人なのですが、そのような4名の超越者を一人ずつピックアップしていきましょう。

 

 

01.アルベルト・アインシュタイン

自己超越アインシュタイン

 

マズローが具体名を述べた超越者の一人は、かの有名なアルベルト・アインシュタインでした。

もっとも、この人選はマズロー心理学に精通している人であれば納得できるものですね。

マズロー著書でもアインシュタインの名前が出てくることは少なくないですし、同じ学者という立場である点においても「科学」や「学問」について論じる上でマズローが大いに参考にしていた人物がアインシュタインであると言えるでしょう。

 

また、アインシュタインの問題解決に関する有名な名言の内容はまさに超越者特有の視点であり、マズローの語るありのままの世界を見ることを可能にする「B認識」への理解を深めてくれるものだと思うのですが、その詳細は下記リンクの記事にまとめているので、ご興味があれば後程ご一読いただければと思います。

アインシュタイン
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あるいは、アインシュタインの少しぶっ飛んだものの考え方や、浮世離れした言動、常識外れの行動にまつわる多くのエピソードからも、彼が超越者に選ばれた理由が頷けると思います。

その象徴となるものが、日本でも有名は舌を出しておどけた表情で映っている顔写真であり、あのようなひょうきんさやユーモラスな一面にも超越者特有の強烈な個性が見てとれると思います

 

それと同時に、超越者たちはマズローが「自己実現的創造性」と呼んだ優れた創造性をもっていたのですが、その点においてもアインシュタインは見事に該当しています

稀代の発明や発見に並外れた創造性が必要なのは言うまでもなく、実際アインシュタインは創造性にまつわる名言も数多く残していますよね。

 

そして何より、彼の代名詞でもある「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」は、それまで常識だった世界観を大きく揺るがすものであり、このような偉大な功績は超越者特有の「B認識」と「自己実現的創造性」があるからこその業績だと言えでしょう。

なおかつ、そこから更に言えることは、これらの理論がそれまでの時間と空間への認識を大きく変容する理論であるという点は、超越者自身が時空を超越できるという話ともリンクする内容と言えるでしょう

また、相対性理論の内容は、マズローの語る「過去の超越」や「現実の超越」、もしくは「宇宙の超越」への理解を深めてくれる内容でもあります。

 

つまるところ、マズローの語る超越論とそれを体現している存在ともいえる超越者というものは、自己実現という概念を超えた存在であるいう意味では自己実現とはそもそものパラダイムが違う世界観において語られているものであり、そのような超越論への理解を深めてくれる存在の代表が、マズローにとってのアインシュタインだったのでしょう。

 

 

02.オルダス・ハックスレイ

超越者ハックスレー

 

超越者の二人目の挙げられる人物は、こちらもマズロー心理学ではお馴染みのオルダス・ハックスレイですね。

とは言え、ハックスレイは日本においてはそれほど有名ではないので簡単にだけ触れておくと、彼は1894年生まれのイギリス出身の著作家で、マズロー著作では主に「ハックスレイ」と記述されるのですが、一般的には「オルダス・ハクスリー」と言われることが多いです。

いわゆる文芸作家としてディストピア小説を書くかたわら、神秘主義研究者としても有名な人物になります。

 

彼が書いたユートピアをテーマにした小説『島』は、マズロー著作でも引用される作品ですし、マズローが考案し理想的社会であると語った「ユーサイキア」という概念はハックスレイの影響を受けていることは確実でしょう。

ちなみに、かの有名なレオナルド・ディカプリオが2020年にハックスレイの『島』をドラマ化しようとしていましたね。

 

また、マズロー心理学的に言えば、ハックスレイの代名詞とも言えるものが「謙遜とプライドとのやさしい統合」というキーワードでしょう

詳しくは拙著『マズローの自己実現~ありのままの自分を謳歌する~』に書いてありますが、この「謙遜とプライドとのやさしい統合」というのは、ある意味では「謙遜」と「プライド」という対立し合う要素を高い次元で統合し両者の矛盾を超えていくことだとも捉えられます。

そういった意味では、対立軸を高い次元で超越した統合的な世界観で生きている超越者の具体的な能力の一つが「謙遜とプライドとのやさしい統合」であり、これは「謙遜とプライドの対立の超越」とも言い替えられるものでしょう。

 

あるいは、このことをマズローの語る「上位自我からの超越」と関連付けることで、自分で自分の限界を決めたり自己否定により自分の運命から逃避する「ヨナ・コンプレックス」という状態から脱却する話にも通じますね。

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つまるところ、ハックスレイは自己実現を阻害する要素を超越した稀に見る優れた人物であり、そのような意味で自己実現の先にある超越にたどり着いたこの上ない好事例と言えると思います。

 

また、マズローにとっては、ハックスレイは「無邪気な目」の代表的な持ち主でもありました

「無邪気な目」をもっている人は、ものごとを見るときに、その対象を何度見てもまるで今まで一度も見たことがないような新鮮さを維持しながら毎回観察することができ、「美しいな~」「不思議だな~」という言葉が漏れ、その観察対象に魅了されることができます。

つまるところ、ハックスレイは、あるがままの世界の姿を見てとり、素直な好奇心や探究心から美しかったり不思議に思えるものを世界からたくさん見つけ、それらを通した自己表現の過程において自分の人間性を深めることで、自己実現の先にある超越という世界へと広がっていたのかもしれません。

 

いずれにしろ、ハックスレイが超越者としてマズローにピックアップされていることは、マズローの語る超越論が何を大事にしているのかや、マズローが使う「超越」という言葉がどんな意味を持っているのかへの理解を深めてくれるものですね。

 

 

03.アルベルト・シュバイツァー

超越者シュバイツァー

 

マズローが挙げた超越者の三人目であるアルベルト・シュバイツァーは、1875年生まれのアルザス人の医師であり、神学者、哲学者、オルガニスト、音楽学者、博学者としても名をはせている人物で、彼は献身的な医療奉仕活動が評価され1952年にはノーベル平和賞を受賞しています。

なお、シュバイツァーの幼少期における有名なエピソードに、超越論とリンクすると言えるものがあるので紹介させていただきますね。

 

シュバイツァーは、牧師の家庭に生まれ比較的裕福な生活を送っていました。

あるとき、同級生の男友達と取っ組み合いの喧嘩をしたのですが、その時にシュヴァイツァーが相手を組み伏せた際、その相手の少年が彼に向かって言い放った下記のような一言がシュバイツァーの心に深く刺さります。

『俺だって、お前の家みたいに肉入りのスープを飲ませてもらえれば負けやしないんだ!』

この言葉を聞いたシュヴァイツァーは非常に大きな衝撃を受け、「自分も相手も同じ人間なのにどうして自分だけが他の子供たちと違った恵まれた生活をしているのか?」ということに悩むようになります。

言うなれば、シュバイツァーはこの出来事がキッカケとなり、社会の不条理さや不健全さ、あるいは貧富の差や不平等などに初めて気づき、子供心ながらもその事に本気で苦悩・葛藤したのです。

そして、ここでの経験は、彼の一生を決定付ける重要な出来事となり、その後の人生の道筋を決めるものになるのです。

 

このエピソードは、自己実現で言うところの正義や真実や完成などを求める「B価値」という高次欲求の追求であると言えるでしょう。

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言い換えれば、マズローが語った「自己実現者が追い求める人間にとっての究極的本質価値」であるB価値への希求をシュバイツァーは幼い頃からもっていたのですね

そんな彼が、様々な分野に励みながら最終的にはマズロー心理学における超越者に当てはまるような存在に到達したということは、納得のいく話であると思われます。

 

また、シュバイツァーは核兵器に反対する活動をしたりする一方で、バッハ研究で高く評価されたり自身もオルガン奏者として卓越した演者であるという点などからも、「B価値の超越」という超越者特有の性質が垣間見える気がしてきます

 

更に言えば、彼の数ある名言のなかの一つである「成功の最大の秘訣は、他人や状況に振り回されない人間になることだ。」というものは、「束縛・支配からの超越」や「他人の意見や周りの目からの超越」そのものを語っていると言えるでしょう。

 

もしくは、シュバイツァーが述べた「この世にはもはや美しいものなど存在しないなどと言ってはいけない。木の形や葉のざわめきにも、あなたをワクワクさせるものが必ずあるものだ。」という言葉は、まさに超越者特有の「B認識」を彼がもっていることを裏付ける発言だと言っても過言ではありません。

 

いずれにしろ、その略歴やエピソードなどを調べれば調べるほど、シュバイツァーが超越者として名前を挙げられることは至極当然のことのように思えてきます。

 

 

04.マルティン・ブーバー

超越者ブーバー

 

最後に取り上げる超越者は、1878年生まれのオーストリア出身のユダヤ系宗教哲学者、社会学者であるマルティン・ブーバーという人物になります。

ウィーンの正統派ユダヤ教徒の家庭に生まれたブーバーは、カントやキルケゴールやニーチェなどに影響を受けながら哲学・美術史・歴史などを学び、大学教授という職に就きます。

『我と汝』という著作でも有名なブーバーがもっていた思想は、「対話の哲学」と呼ばれる「自分」と「他者」が語り合うことによって世界が拓けていくというものなのですが、この内容はマズローの語る「否定性の超越」や「個人差の超越」とも繋がる話ですね

 

ブーバーの主張をザックリとまとめると、ブーバーは、「わたし」という存在が独立して存在しているのではなく、「わたしとあなた」という人間同士の関りが世界の根本にあると考えていました。

というのも、「わたし」という存在は、言うまでもなく他者から見れば「あなた」という存在ですよね。

同時に、「わたし」にとっての「あなた」は、その人にとっては「わたし」になります。

つまり、世界というのは「わたし」ありきではなく「あなた」という存在がいることで成り立つものであり、したがってこの世の中には「わたし」だけで生きることができる人はいないので、誰もがみな必ず他者との関係性をもちながら生きているという考え方が、ブーバーの哲学の基本に据えられています。

 

このことは、マズローの語った「愛他的な超越」や「自己の意志の超越」や「作為と努力の超越」などと通じる考え方であると言え、つまるところ、自他という分離や対立を超えた世界観における超越ですね

 

また、ブーバーの名言に「一人一人がいまだかつて存在したことのない唯一無二の存在である。それはつまりあなたにしか果たせないことがこの世にはあるということだ。」というセリフがあります。

その発言は自己表現そのもののことを言っているような内容であり、こういった俯瞰的な言葉が言えるのは自己表現の先にある超越に至ったからこその視点とも言えるでしょう。

 

あるいは、ブーバーが、他者を自分の利益を得るための道具として見ないで計り知れない独自性を持った存在として見ることが大事であると考えていたことは、マズローの語る「概括」という対象をカテゴライズしその真価を見なくなることへの注意喚起と紐づく話だと思います。

このような発言からも、ブーバーが「B認識」により相手のありのままの姿を認知し、超越的な立場から相手のあるがままの個性を受容し愛していたことが想像できるのではないでしょうか

 

また、ブーバーは「真の闘いは資本主義と共産主義の間にあるのではなく、教育と思想の間にある」という意見をもっていたのですが、このことから、彼がマズローの価値観と同じような価値観を持っていたようにも思えてきます。

マズローが心理学という立場から教育論や思想論を語っていたのと同じように、ブーバーは哲学的な立場からそれらについて語っており、両者の描くビジョンは同じ未来を見据えていたような気がしてなりません。

 

いずれにしろ、こと人間関係や他者との繋がり、あるいは社会との関係性といった切り口でブーバーの思想を紐解くと、マズローの語る超越論との親和性がたくさん見てとれると思います。

 

まとめ

 

さてさて、具体的な4名の超越者の話はいったん以上になりますが、彼らの略歴はもちろん、特徴的なエピソードや名言や逸話などはネット等で調べればたくさん見つけられます。

また、彼ら自身が書いた書籍、彼らが創った楽曲や、彼らが提唱した理論などといった作品は、現代でも見聞きすることができるものもあるので、そういったものに触れることもマズローの語る超越への理解を深めてくれます。

いわんや、超越論はその性質上どうしても抽象的だったり感覚的だったり主観的な説明だったりにならざるを得ないという特徴があります。

 

そういった意味でも、ここで挙げた4名の人物の創り出した作品・成果物・創造物に五感を通して直接触れることで、超越とはどんなものなのかへの理解が深まると思います

もしくは、そういった作品に触れることで、彼らが見ていた世界の片鱗を垣間見ることができるかもしれません

 

あるいは、彼らが自身のもつ能力や可能性を最大限に発揮するだけでなく、それらを様々なかたちで現実的に成果物にしたり具体的な結果を出していること、すなわちマズローが語った「自己実現的創造性」を発揮していることも、自分の五感を使って直接作品と関わることでそれを肌で感じられるでしょう。

 

いずれにしろ、そういった取り組みだけでなく、彼らの略歴やエピソードや名言には、確かにマズローの語る「文化の超越」や「利己主義の超越」なども含めた様々な超越の意味を感じることができるので、是非一度ご自身でも調べてみて下さいね。

 

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