マズローの欲求階層においてよく目にする尊厳欲求というワードですが、実はマズロー自身は尊厳欲求という名前は使っていないのはご存じでしょうか?
また、大方の説明では尊厳欲求ではなく承認欲求という単語が使われるケースが多いですが、この承認欲求というネーミングも正しい名称ではありません。
生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求に次ぐ4番目の欲求は、尊厳欲求とも承認欲求とも違う、もっと別の欲求のことなんです。
というか、尊厳欲求も承認欲求もこの4つ目の欲求の一部でしかないんですよね。
今回は、そんな一般的には多くの誤解を生んでしまっている第4の欲求について尊厳欲求という切り口からサクッと2~3分で読めるコラムとしてまとめてみました。
尊厳欲求とは
まず最初に、改めての結論から言うと、マズロー心理学における欲求階層において、生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求に次いで4番目に表れる欲求は、尊厳欲求ではありません。
正しい名称は、「尊重の欲求」になります。
もっとも、一見すると尊厳も尊重も同じように思われるかもしれませんが、マズロー自身はこれらの単語を使い分けており、厳密に言うと、尊厳欲求は「尊重の欲求」のなかに含まれる一つの要素でしかないんですよね。
したがって、この両者をしっかりと区別して理解しないと、欲求階層を本当の意味で正しく理解したことにはならないんです。
そもそも、このことは尊厳と尊重の日本語の意味を見比べても実は一目瞭然だったりします。
それぞれの意味は下記のとおりです。
尊厳:とうとくおごそかなこと。気高く犯しがたいこと。
尊重:尊いものとして重んずること。
もしかしたらこうして見比べてもあまり違いが分かりにくいかもしれませんが(笑)、両者の意味をもっと噛み砕くと分かりやすいと思います。
尊厳とは何かを平たく言えば、「格位・価値が高い」ことに使われる言葉です。
一方で尊重を一言で言えば、「大切に扱う」ということです。
しかし、僕たちは普段の生活の中でも、ごくごくフツーで決して各位が高くないような物事を大切にする(尊重する)ことはありますよね。
たとえば、幼い子供の意見は、別にその意見が幼稚でありふれていてもその意見を尊重することはあります。
つまり、おごそかでなくても、気高くなくても、位が低くてもその対象を大切にすることはありえるという意味で、尊厳と尊重はイコールでは結べないということです。
また、これは少々僕の個人的な感覚ですが、尊厳はややかしこまった厳格な感じがしますが、一方で尊重とはもっと温かみがあって柔らかい印象がないでしょうか。
それに、普段の日常会話では、「尊重する」とは言いますが、「尊厳する」とはあまり言いませんよね。
実際、「尊重したい!(尊重されたい!)」という表現は見聞きする一方で、「尊厳したい!(尊厳されたい!)」と表現されることはまずないですし、後者の表現は日本語としても違和感たっぷりです(笑)
もっとも、これは国語の文法的の話をしたいのではなく、こうして比較してもやはり「尊厳」と「尊重」はそのニュアンスは微妙に(むしろ全然)違うよねということです。
そして、実際マズロー自身も、欲求階層における4つ目の欲求の名前を「THE ESTEEM NEEDS」という英語で表現しているんです。
なお、「esteem」の和訳は「尊重する・尊敬する」「尊重・尊敬」などです。
ちなみに、一方の尊厳を英訳すると、「dignity」や「sanctity」という英単語が当てはまり、これらはいずれも「威厳、尊厳、品位、気品、神聖、高潔」などの意味を含んでいるものです。
つまり、マズローは4番目の欲求の名前を、このような意味を持つ英単語ではなく「尊重する」という意味を持つ「esteem」という単語を使っていることからも、その日本語の名称は「尊重の欲求」が正しいということです。
しかも、冒頭でも触れたように尊厳欲求はこの「尊重の欲求」に含まれる一つの要素でしかないんですよね。
そして、同様に承認欲求も「尊重の欲求」の一部に過ぎません。
これらの事も含め、ここまでの内容をイメージにするとこんな感じでしょうか。
ということで、尊厳欲求というはあくまでも「尊重の欲求」の中に含まれるものであり、承認欲求と同じく欲求階層上の4番目の欲求の名称ではないということでした。
なお、尊重の欲求と承認欲求の詳しい内容はそれぞれ下記リンクのコラムで詳しく解説しているので、せっかくの機会にぜひこちらも読んでみてくださいね。
ちなみに、この2つのコラムを読む順番は、承認欲求⇒尊重の欲求の順番だと、よりスムーズに内容が理解できると思います。