松任谷由実さんの歌う「やさしさに包まれたなら」という曲は、時代を超えて受け継がれるべき名作ですよね。
今回は、そんな素敵な楽曲を、アメリカの心理学者マズローの語る自己実現における「子どもらしさ」というキーワードと結びつけるかたちで、その歌詞の意味を解釈してみたいと思います。
というのも、この曲の歌詞の意味を「自己実現のメガネ」をかけて見てみると、今までとは少し違った姿を現してくれるからなんですよね。
ということで、まずは早速、歌詞を引用してみましょう。
松任谷由実「やさしさに包まれたなら」
作詞:荒井由実
作曲:荒井由実
小さい頃は神さまがいて
不思議に夢をかなえてくれた
やさしい気持で目覚めた朝は
おとなになっても 奇蹟はおこるよ
カーテンを開いて 静かな木洩れ陽の
やさしさに包まれたなら きっと
目にうつる全てのことは メッセージ
小さい頃は神さまがいて
毎日愛を届けてくれた
心の奥にしまい忘れた
大切な箱 ひらくときは今
雨上がりの庭で くちなしの香りの
やさしさに包まれたなら きっと
目にうつる全てのことは メッセージ
カーテンを開いて 静かな木洩れ陽の
やさしさに包まれたなら きっと
目にうつる全てのことは メッセージ
いや~、改めて目で追う形で触れてみても、本当に素敵な歌詞ですね。
余計な説明など差しはさむのは、かえってこの曲のすばらしさに泥を塗ってしまうような気もするのですが、今回はあえてこの名曲に秘められたメッセージ性とは何なのか紐解いていきましょう。
結論から言うと、この曲は僕たちに「幼い子どものありようの大切さ」を思い出させてくれる曲だと僕は思っています。
・子どものもつ純粋無垢な感性
・澄んだ瞳で世界をとらえること
・ありのままの自分の素直に表現するチカラ
・自己の内面から湧き出る豊かな創造性
・恐怖をものともしない天真爛漫さ
・時間も忘れて無我夢中でものごとに没頭する姿勢
・目的もなくただ楽しいという理由で遊べること
そんな、子どもがもつ素晴らしさは、自分らしく豊かな人生を送る上では欠かすことのできない要素だと思います。
しかし、多くの大人がこれとは対称的な人物に変貌してしまうのもまた事実。
誰しもが幼いときはもっていた宝箱を、大人になるにつれ僕たちは心の奥底にしまい込みます。
しかも、どんどん歳を重ねるにごとに、次第にそのことすら忘れてしまうのです。
そうして、「自分のやりたいことが分からない…」「幸せってなんなの?」「いったい私はどうしたらいいの?」という迷宮に迷い込みます。
「心の声を聞くってどういうこと?」「自分の内側に目を向けるってどうしたらいいの?」という迷子ちゃんになることも。
幼い頃によく起きていたシンクロニシティ(偶然の一致)やセレンディピティ(予期せぬ幸運)は、影も形もありません。
小さい頃は不思議と夢をかなえてくれ、毎日愛を届けてくれていた神さまは姿を消してしまいます。
「やさしさに包まれたなら」は、そんなときに僕たちに大切なヒントを示してくれる曲だと言えるのではないでしょうか。
そして、大切なのは自分にないものを探し回ることではありません。
もともと自分のなかにあったものを「思い出す」だけでいいはずです。
大切な箱は、ずっと片時も離れず自分と一緒にい続けてくれていて、それは開こうと思えば「いま」開くこともできるもの。
子どもの頃に自然とできていた感覚を思い出せば、あとはもう大丈夫なのだと思います。
そういった意味で、大事なのは「無いものねだり」ではなく「あるもの探し」なのではないでしょうか。
幼い日の自分を思い出すことで改めて見えてくるものがあったりもしますよね。
そして、世界と自分に心を開き、無邪気な目でそれらを眺めることで、目にうつる全てのものがメッセージになるのです。
人生に起こるあらゆる出来事や人との出会い、あるいはそれに伴って湧き起こる感情や手痛い失敗、もしくは普段のありきたりなルーティーンでさえ、一つ残らず自分に気づきと発見を与えるために世界に姿を現してくれたのです。
子どものような目で世界を見ることができれば、そういったあらゆることが大切な問いかけや答えとして僕たちに語りかけてくれます。
このような意味で、ユーミンの歌う「やさしさに包まれたなら」は、自分が経験する出来事のすべてが「良い悪い」という評価判断を超えたかけがえのない体験だったことを思い出させてくれると同時に、
マズローの語る自己実現における「子どもらしさ」というキーワードへの理解を促してくれる素晴らしい名曲なのだと僕は思っています。
というのも、歳を重ねるにつれて失われてしまう子どもらしい在りようを、喪失することなくむしろより成熟させたかたちで自己に内包できていることが、マズローの語る自己実現の特徴でもあるからなのです。
ちなみに、この曲はジブリ映画「魔女の宅急便」のエンディングテーマソングに使われた曲ですが、映画とセットで聞くことでより明るくてピュアな世界観が引き立つこともポイントですよね。
また、言わずもがなメロディも美しいのが「やさしさに包まれたなら」の大きな魅力でもあると思います。
この柔らかさやあどけなさを感じる歌詞が、優しい朝を思い起こさせてくれるようなメロディに乗せられることで更に一曲の歌として卓越したメッセージ性を帯びているのではないでしょうか。
最後になりますが、マズロー心理学のキーワードにはそんな「子どもらしさ」「無邪気」「あるがまま」などの言葉がぴったりなんです。
それは言い換えれば、「子どもの心のまま大人になれる方法」のヒントがつまっているということ。
「やさしさに包まれたなら」には、そんな本当の意味での心の健康を手に入れるエッセンスが眠っているんですね。
そして、この曲が時代を超えて多くの人々に受け入れられているという事実が、僕たちみんなが心の底でそれを求めており、ひっそりとそのことを感じ取っている証なのだと思います。
※このコラムの内容は、あくまでも僕の視点からマズロー心理学という眼鏡をかけた目で見た個人的な解釈であり、この曲の作り手・歌い手・演者の方々が込めてくれたメッセージの感じ方の一つです。